2年生のバスを見送って、私たちは行きと同じように電車で帰宅することになった。

「松林創立以来の珍事だってよ。一学年まるまるバスがとれないなんて」

帰りの電車で元気が残っているのはめぐちゃんと浅井君くらいのもので、他のメンバーはぐったりと背もたれにもたれていた。

時間帯が丁度あった鈴木君も、石田君と2人で優先席を占拠し、疲れたという言葉を繰り返している。

「保護者から苦情入りまくりだろうな、今頃」

めぐちゃんの隣りに座った浅井君も、彼に同調する。

「楽しかったけど、高校最後の遠足っていう実感は湧かなかったな」

そうポツリと言ったのは、石田君だった。

俯いていた全員がパッと顔を上げ、石田君の方を見る。

「これからの行事全部、高校最後のものだって考えたら、急に白けて来る」

そう言った石田君は、鈴木君の肩に靠れて目を閉じた。

「薫はどうせ留年だろ、大丈夫だって」

鈴木君が低い声で返したのが、辛うじて聞こえた。

――全部が最後のもの、か。

球技大会も、体育祭も、文化祭も……ずっと面倒だと思っていて、積極的に参加ができなかった行事すべてが、今年で最後。

そう思うと、どうしてもっと積極的にやらなかったのだろうとか、どうしてもっと楽しもうとしなかったのだろうとか……かつての自分の行いが悔やまれた。

「忘れちゃうんだろうな、こうやって皆ではしゃいでたことも、大人になれば」

浅井君の言葉に、妙にしんみりとしてしまった。

「そう言えば、芳野ってバスで帰ったんだよね。
何で行きは入れ替わってたの」

梶君に聞かれた鈴木君は、皺の寄った眉間を指で押さえる。

「あいつ、バスの匂いが苦手だから。
どうしても嫌だから代わってくれって昨日の夜に頼まれた」

バスの匂いなんて意識したこともなかった私はいまいちピンと来なかったものの、浅井君が「分かる!」と身を乗り出した。

「なんか変な匂いが籠ってるんだよな、車内中に。
しかも窓を開けたると怒られるから、到着するまでずーっと淀んだ空気の中で座ってなきゃいけないし」

「1度発車したら止まってくれないっていうのも嫌だよね」

大半の人たちがバス嫌いらしく、皆がヒートアップしていく。

相槌も打てずにボーッとしていると、眠ったはずだった石田君がボソッと言った。

「あの狭い閉鎖された空間で気分が悪くなったらって思うと、乗る前から吐きそうになる」

人の顔色を窺うように、明るく振る舞う人たちだから。

些細なことでも考えてしまうのだと思う。

1年の時、自分だって辛いのに明るいお兄さんのような存在となっていた石田君や、2年の時に自分の欠点をすべて隠すようにして女子たちを引っ張っていた芳野君。

ひまわりの家に住んでいる男子たちを次々と思い浮かべて、少しだけ胸が絞めつけられた。

――誰だって痛いのや苦しいのは嫌だけど。

昼間の芳野君の言葉が、頭の中をグルグルと回った。