また別のアトラクションへと皆が向うのを見送っている時のことだった。

井方君に遠慮がちに肩を叩かれた。

「どうしたの?」

自分よりずっと背の高い彼を見上げて訊ねると、井方君は無言のまま指さしをした。

彼の指の先を辿って行くと、ベンチの上に仰向けになって気持ち良さそうに眠っている城島君の姿がある。

「相変わらずマイペースだね、彼……」

私の言葉に井方君が少しだけ笑う。

「城島と梶先輩入れて4人で、適当に回りませんか」

明るい声で言われ、私は少しだけ返事が遅れてしまった。

井方君は城島君へと駆け寄って行って彼を揺さぶり起こすと、私と梶君に向かって大きく手を振った。

「井方と城島は絶叫系とかも平気なの?」

梶君に聞かれた2人は、顔を見合わせてから「余裕」とVサインをする。

どちらも都会的な容姿だし、いかにも遊んでいそうな雰囲気だったから、別に意外性という意外性はなかった。

ただ、あまりのタフぶりに少し感心してしまった。

「バスケ部で絶叫系が苦手な奴って、大地くらいじゃないかな」

そんなことを言いながら井方君が梶君に園内の地図を見せる。

「暗いやつとアップダウンが激しいものと回るやつと揺れるものでなければ何でも」

何でもという割にそれなりに絞り込んだ注文をした梶君に対して、井方君が悪い頭を抱える。

「バイキングとか……!」

思いついたように笑顔で言う井方君に、梶君が引いたような表情を見せた。

「バイキングは揺れるだろ井方」

城島君がケラケラと笑いながら井方君の背後から地図を覗き込む。

「お化け屋敷とかさー、もっと穏やかなとこに……」

「暗いやつもムリって俺最初に言わなかったっけ……」

梶君が呆れたように言うと、2年生2人は眉間に皺を寄せたまま地図に顔を近付けた。地図の上に指を滑らせながら必死に条件通りの乗り物を探している姿がかなり不憫に思えてしまった。

「たとえばミラーハウス、とかさ」

例として適当に上げてみたところ、即決されてしまった。