「次ジェットコースター乗る奴挙手ー!」

芳野君の呼びかけに、パパッと手が上がった。

集合時間まではあと1時間半も余っていた。

バスケ部の皆はすべてのアトラクションを攻略すると言い張り、その言葉通り既に地図の半分以上がチェックマークで埋まっていた。

「梶と風野さん、ほんと絶叫マシーン苦手なんだね」

2年生たちを見送ってから、芳野君が私たちを振り返って愉快そうに言った。

「君子危うきに近寄らずって言うでしょ」

私の言葉に梶君が深く頷く。

「わざわざ目が回るようなものに乗って酔う必要が何処にある」

芳野君は私たちを交互に見てから肩を竦めると、近くにあったベンチに腰をおろした。

「優等生は言うことが違うね」

茶化すように言いながら、彼は2年生たちが乗って行った車体を見上げる。

逆光が眩しいため、手で顔へと影を作りながら目を細めている。

「誰だって痛いのや苦しいのは嫌だけど。
不器用過ぎてそういうことから逃げられない奴もいる。
うちの部は特にそういう奴が多いから」

そう言った彼はゲートから出て来る後輩たちに向かって小さく手を振る。

手を振り返す生徒もいればパッと頭を下げる生徒もいて、中には無関心に顔を逸らしている生徒もいた。

「大地は次、何乗りたい?」

井方君に地図を渡された芳野君は少しだけ考え込んでから、園内奥にある屋内ジェットコースターを指さす。

過去に転落事故を起こして以来本気で恐れられているアトラクションだというのに、バスケ部の人たちは歓声を上げ始める。

――君子危うきに近寄らず。だよ。

先程自分が口にした言葉をもう1度心の中で呟いてから、私は小さく溜息をついた。