「珍しいことじゃないよ、全然。

野球部は顧問が不在だけど、俺らが1年の時は先輩たちがやる気のなさそうな部員を叩いたりしていたし。

叩くことによって喝を入れるって、結構昔からの考え方じゃん」

鞄を担ぎ直しためぐちゃんが、眉を顰めながら言う。

そうは言っても彼だってあまりああいう指導が好きではないらしかった。

私が異論を唱えようとした時だった。

体育館横の水飲み場で水を飲んでいた男子が、私たちに気付いてパッと顔を上げた。

「風野先輩、でしたっけ……」

慌てて彼の顔を確認して、私も「井方君」と彼の名前を口にした。

両腕にはめたリストバンドと、妙にほっそりとした長身と、恐ろしいほどに整った顔立ち。

「さっきの練習には出てなかったの?」

私が訊ねると、彼はあっさりと頷く。

「今館内で練習してるのは、ここ1カ月で不真面目な態度が目立った生徒だそうです。
練習不足だとか、先輩への横柄な態度だとか……。
そういう生徒を集めての練習試合」

ずれかけていたリストバンドを直しながら、井方君は涼しげな表情のまま言った。

――運動部って怖いんだ。

平和ボケした野球部しか知らなかった私は唖然としながら相槌を打つしかなかった。