「たぶん城島君じゃなくても今のはああなる……」

私が言うと、城島君がホッとしたように肩を下ろす。

「蹴っちゃって申し訳ないです」

城島君はその場に足を組み直して珍しく小声で言う。

梶君は「いいよいいよ」と軽く流しながら、城島君に上履きを渡す。

「でも、膝痛めてるっていうのはあってるよな?」

梶君に聞かれた城島君は「えー…」と顔をしかめながら頷いた。

「でも別に大したことじゃ全然ないよ。
小学生の時も中学の時も、よく筋肉痛とかなってたしさー」

スポーツ障害という言葉を知らないのだろうか。

城島君は梶君の話をどこまでも聞き流していた。

「もっと真面目に聞けって」と梶君が業を煮やしかけた時だ。

教室の扉が開いて、石田君が顔を覗かせた。

「梶、野球部で集まりがあるって浅井が言ってたけど行かなくて大丈夫?」

時計を仰いだ梶君は忘れていたのか「あ……」と呟いて、立ち上がるとほとんど挨拶もなしに教室を出て行ってしまった。

ハイスピードで走って行く梶君を見送ってから、石田君は教室内へと入って来た。