芳野君は、授業でも試験でも水性ペンで物を書いていた。

筆箱にはカラーペンしか入っていなくて、鉛筆やシャーペンを使っているところは1度も見たことがない。

授業中にキュッキュと滑りの悪い音を立てる彼は、4月当初からやけに目立っていた。

不真面目な態度の芳野君はよく先生に注意をされることがあったけれど、中でも印象に残っていたのは体育の授業中のことだった。

点呼の際によそ見をしていて返事が遅れた彼を「おいこら芳野」と先生が指さした際。

芳野君は一瞬だけ悲鳴を上げた。

周りが驚いたように振り返ったし、先生もギョッとしてしまった。

芳野君は辺りを見渡してから照れたように笑い、すぐに姿勢を正していた。

そして、クラス会食の時。

みんなが食べ始める中彼はスッと手を上げて先生を呼んだ。

「すみません、スプーンに替えてもらえませんか」

配布された割り箸に触れることなく彼はそう言って、先生からすぐにスプーンを受け取っていた。


……とは言え、そんなことはさすがに女子たちに教える訳にもいかない。