「あれが運動部ってやつなの?」

梶君の言葉に芳野君が「うん、まぁ……」と苦笑いを浮かべながら頷く。

「正直引く。
ていうかあり得ない」

私も梶君の横で言ってしまった。

昨年のクラスでの芳野君は明るいムードメーカーだったし誰にでも優しかった。

後輩を相手に威張るような真似をするような一面なんて知りもしなかった。

「あり得ないけどさぁ……。
1年は2年と3年と監督に、2年は3年と監督に、3年は監督とOBに頭を下げて成り立つ部活なんだよ。
後輩指導しないと俺らだって干されるんだからさぁ……」

芳野君は困ったような表情で頬を掻く。

「部活のカラーってあるじゃん。
野球部が駆け込み寺なのはもう認知されてるけど、男バスは未だに認知されていない部活なわけ。
体育館の壁の外からは分からないことって結構あると思うんだよね」

彼はそう言うと、パッと壁から離れた。

「大地、次移動教室だって」

芳野君の教室から出てきた長身の男子が教材を高く掲げて言った。

芳野君はすぐに返事をして、私たちに目礼をすると教室へと入って行ってしまった。