芳野君はすぐに廊下まで出てきてくれて、私と梶君を見下ろすと「久しぶり」と肩をすくめて笑った。

「大変言いにくいんだけど、お前のとこの部員が野球部に転部したいんだって。
それで挨拶回りをするよう監督に言われたらしいんだけど、野球部としては今日からこちらの練習に出てほしいから、俺が代わりに挨拶することになりました」

梶君が簡潔に事情を説明すると、芳野君は「またか」と肩を落とした。

「部員って、誰だっけ……1年のあの背の高い子?」

芳野君に訊ねられて梶君はあっさりと頷く。

「バスケ部の2、3年ってそんなに怖いわけ?
今月に入って転部希望者が絶えないんだけど……」

梶君の言葉に芳野君は困ったように首を捻る。

「そんなことないと思うんだけどなぁ……」と歯切れ悪く言いながらも、彼は退部の許可をくれた。

同じクラスにバスケ部が他にもいるらしく、その場で一斉に呼び集めて決までとってくれた。

「このクラスの部員は全員許可ってことにしておいて。
体験入部の時期だし退部も仕方ないよ。な?」

芳野君に同意を求められた2年生たちはしぶしぶといったようにゆっくりと頷いていた。