放課後。

「いつピアス開けたの」

私の言葉に、前の席に座っていた淳君はゆっくりと振り返った。

「結構前……」

彼はそう言いながら自分の耳をそっと手で覆う。

「痛そー」

私が言うと、淳君は表情を変えないまま「痛かったよ」と答えた。

彼の耳に空いた小さな2つの穴を、私はマジマジと眺めてしまう。
自分の開けるところを少しだけ想像して、あまりの痛さに思わず耳を覆ってしまいそうになった。

「そういうのって、ピアッサーでやるの?
それとも病院?」

恐る恐る訊ねると、淳君は胸ポケットから安全ピンを取り出した。

「これで……一気に……」

彼は開けた時のことを思い出したのか一瞬だけ表情を顰めながら、貫く身振りをしてみせた。

「そういうのって、ばい菌とか入らない?
衛生上とか……」

私がまた恐る恐る訊ねると、淳君はまたポケットから別のものを取り出す。

コンビニでも割と売っている安っぽいライターだった。

「ライターで、最初に炙って殺菌をしておくと、割と。
あと開けた後は消毒とかして……それでも膿んだら病院行った方がいいらしいね」

彼自身は膿まなかったらしく、他人ごとのような口ぶりだった。

「淳君はさ、そういうことって平気なの?」

私の言葉に彼は視線を漂わせる。

そして、するりと制服の袖を捲った。

「自分でやる分には平気だよ。
人にやられたのは……いやだけど」

そう言う彼の腕には人にやられたという痕が幾つも残り、肌色の部分がほとんど残っていない訳で。

「お兄さんが真似しちゃうかもよ」

私が言うと、淳君は「え」と濁った声を上げた。

「薫はもう全然関係ないから。多分俺の真似なんて絶対にしないと思う」

淳君はそこまで言って、軽く目を伏せた。