「梶―、転部届け出しに来た1年がいるからちょっとこっち来て」

浅井君が駆けてきたのは6時になりかけた時だった。

どこの部活も既に終わり、校舎の明かりが次々と消されていっていた。

梶君は私の手を軽く引いて浅井君の後に続く。

「転部希望の奴ってどこの部活?」

先を早足に歩いていた浅井君は、髪を掻きながら振り返った。

「バスケ部」

その単語に梶君は足を止め、私もつられるように足を止めた。

背後からは、まだボールの弾む音が聞こえていた。

消灯時刻も施錠時刻も過ぎているのに、まだ誰かが残っている。

「またか」

梶君が小声で呟いて、クラブハウスの扉を開けた。

中にいた井上君やめぐちゃんがパッと振り返り、困ったような表情を浮かべる。

「転部したくてもなかなかできないんだってさ」

井上君の言葉に浅井君が「げー」と顔をしかめた。

「部員1人1人の教室へ行って退部理由を言って頭を下げて回る。それで全員の了承が出たら部活を抜けられる……って、典型的な体育会系だよね」

井上君がそう言って、クラブハウスの隅に申し訳なさそうに立っている男子生徒の顔を覗き込んだ。

「いいよいいよ。
俺が代わりに全員分回って話付けてくるから。
君は明日からでも野球部の練習参加して」

梶君は明るくそう言って、1年生の肩をポンと叩くと、クラブハウスの窓から体育館のある方角を見る。

もう、鍵は閉まる。電気は消える。

あの館内に残っている誰かに早く外へ出てほしいと、私は願った。