翌日、登校すると3年の廊下には試験結果の貼り出しがあった。

人だかりの後ろから背伸びをし、1番上に自分の名前を見付ける。

「すごいじゃん、風野さん」

通りがかった浅井君に明るく声をかけられ、私は笑い返した。

教室に入るとすぐに視線が私へと集中し、暫くの間があって静かなざわつきが起こった。

もう慣れてしまった嫌な雰囲気に顔をしかめそうになりながら、私は自分の席へとまっすぐ歩いて行き、席へ座る。

鞄を机の脇に掛けるまで、私には冷ややかな視線が注がれていた。

「サイテー」という声がボソッと聞こえ、ギョッとする。

私の机にはうっすらとしたシャーペンでの落書きがいくつも施されていた。

「チクリ魔」「カンニング犯」「性格も顔もブス」

心当たりのある言葉の数々に、一瞬で背筋が凍った。

縋るような気持ちで前の席に目をやったが、淳君はまだ登校してきていなかった。

「担任と一緒になってクラスメートを裏切るとか、マジで屑だよね」

何処かから聞こえてきた言葉に、身体が震え始める。

まったくの誤解だと説明をしたかったのに、その説明をする相手がいない。

クラス全員が既に私のことを白い目で見ているということは、何となく空気で察することができてしまった。

嫌な汗が手の中にじんわりと滲み、どうすれば良いのか分からなくなる。

真っ白になった頭の中に一瞬だけ浮かんだのは、つい先ほど廊下で見た浅井君の笑顔だけだった。

――この教室は嫌だ。

何十もの視線を背負いながら教室を出ると、丁度担任がやって来るところだった。

「風野さん、丁度良かった」

明るい声でそう言われ、私は胸が締め付けられそうになった。

先生たちが考えた最善策の為にこんな事態になっただなんて、とてもじゃないけれど口にはできない。

私が返事をせずにいると、担任は遠慮がちに黄色い封筒を私へと差し出した。

「今回のことで、風野さんが潔癖だということ……つまり清水さんがカンニングをしていたということが証明されたの。
それで、職員会議で決まったことをその封筒の中に入れておいたから、何処か静かな場所でゆっくりと確認してね」

潜めた声で早口に言うと、担任は教室へと入って行った。

何も考えないままに彼女の言葉を受け入れた私は、その足で保健室へと向かった。