フードコートの店先にあるメニュー表を眺めながら石田君が小さく眉を顰める。

「イチゴオレがない」

小声で呟く彼に思わず笑みを浮かべながら、私は梶君たちに言われた分を早々に注文する。

レジ打ちは新人バイトの学生がやっていて、随分と手間がかかっていた。

メニュー表を眺めながら感嘆の声を漏らしているところを見ると、石田君もあまりこういう場所に来たことがないらしい。

「風野、メロンフロートの上に乗ってる白いやつってアイスクリーム?生クリーム?」

私の服の袖を引っ張りながら訊ねて来る姿はやけに子どもっぽくて、いつものお兄さんっぽさの欠片もなかった。

合計金額を口頭で伝えられると、石田君はズボンのポケットから長財布を取り出す。

パッと開かれた札入れには福沢諭吉が少なくとも10人は潜んでいた。

非日常的な彼の財布に唖然とし、思わず不躾な視線を注いでしまう。

「石田君って、バイトとかしてるの……?」

3桁の会計に迷いなく万札を取り出した彼に震える声で訊ねてみると、石田君は不思議そうな顔で振り返った。

「してないけど」

答えながら、大量に発生したお釣りを適当に財布に押し込み、彼はまた長財布をポケットへと入れた。

「高校生が持ち歩く額じゃないじゃん、あれ」

私が小声で言うと、石田君は「そう?」と真顔で返して来る。

「使わないから増えるだけだよ、多分」

そんなことを言い、石田君は不意に足を止めた。

「城島じゃね、あれ」

石田君は細い指でフードコートの隅の方の席を指す。

彼の短い爪の先を辿って行くと、テーブルに突っ伏している茶髪の男子の姿があった。

「そう言えばさっき、ボーリングのところにいなかったよね」

私が記憶を辿る間に、石田君は細い足音を響かせてフードコートを突っ切って行く。

受け取ったトレイを持ち直して、私は急いでその後を追った。