井方君が城島君の手首をグイと掴み、屋外から上階へと行ける階段を駆け上って行く。

ぐんぐんと遠くなる2人の背中を見送ると、丁度梶君たち遅延組がやって来た。

「バスケ部来てるの?」

屋外階段を指さしながらめぐちゃんが訊ねると、浅井君が「2年だけ」と頷いた。

井上君と昨晩観た深夜アニメについて話していた石田君が、ハッと思いついたように淳君を振り返る。

歩み寄らないまま、グイと伸ばされた石田君の両腕は、勢いよく淳君の胸倉を掴んで引き寄せる。

「おまえ、俺にでたらめな集合場所教えただろ」

激昂とはほど遠く、ただひんやりとした表情と声色の石田君に、淳君が表情を引き攣らせた。

「ちょっと間違えただけ!」

石田君の手にソッと自分の手を重ねようとしながら、淳君が上ずった声で弁解を始める。

最初の頃はこれだけで皆慌てていたけれど、さすがに2年も見ていれば慣れてしまい、誰も止めに入ろうとはしない。

困惑しているように見えてどこか嬉しそうな淳君と、怒っているように見えてどこか楽しそうな石田君。面白がってちょっかいを入れるめぐちゃん。

すっかり定着してしまったこの組み合わせに、私も少しだけ頬を緩めた。

ようやく解放された淳君は、胸をさすりながら少しだけせき込んで、恨めしげに実の兄を睨みつける。

「淳はバカだから記憶力悪いから覚えられなかったんだよ。
察してあげなよ」

淳君の背中をさすりながらめぐちゃんが涼しげに言うと、石田君が小さく吹きだした。

笑いを堪えるように片手で口を覆い、そっぽを向く。

その肩がプルプルと震えているのを見て、淳君が更にムッと表情を固めた。

「そう言えばお前、頭悪かったんだっけ」

震えたままの声で石田君はそう言って、淳君へと向きなおる。

「言うほど悪くないから……」

不貞腐れたように呟いて、淳君は石田君から顔を背けた。