「両手に花だね、風野さん」

井上君と一緒に入口付近のベンチに座っていた浅井君は、私に気付くと邪気のない笑顔で声をかけてくれた。

石田君がそっと手を解くのに対し、井方君は繋いだまま浅井君に頭を下げる。

「梶が見たら落ち込みそうな図だったよね」

井上君が静かに言うと、浅井君が思い出したように言った。

「めぐと淳は電車が遅れてるって。
梶も同じ電車だってさ。3人別々にメールが来た。
もうすぐ来ると思うけど、風野さんたち、日陰で待ってなよ。暑いでしょ」

浅井君に言われ、井方君はパッと屋根の下に私を引っ張って入る。

井方君は誰と約束をしたのか私が聞こうとした時だった。

私の背後で立ち止まる音が一瞬だけ聞こえ、私と井方君へと影を落とした。

私が振り返る前に、井方君が笑顔になり、パッと私から離れる。

「良いな、井方。
風野先輩と手繋いでたんだ」

井方君に駆け寄られた城島君は、井方君の手にソッと自分の手をあてがいながら冗談っぽく笑う。

井方君と似たり寄ったりな軽い服装に、少しだけギョッとして思わず凝視してしまった。

「年中ジャージのイメージしかなかった……」

思わず本音を言ってしまうと、井方君と芳野君が同時に吹きだした。

驚いたように私へと視線を移した城島君は、微笑を浮かべながら肩をすくめた。

「ヤンキーじゃないんだから、そんな格好で外出しないよ」

ブレスレットを二重に巻いた手首や、重そうなネックレスを下げた肩。

城島君も充分と細身なはずなのに、全体的に華奢な井方君と並べると、やけにガッシリとして見えた。

「城島君と待ち合わせだったんだ」

私が言うと、城島君が大きく頷いた。

「バスケ部の2年で待ち合わせしてたんだ。
10時に」

城島君の言葉に、ずっと聞き流していた浅井君たち野球部がギョッとしたように振り返った。

建物の入り口前に設置された電波時計はすでに11時になりかかっていた。

「なんで1時間も遅刻っ!?」

慌てて城島君の肩を掴みガクガクと揺さぶってみても、彼は「うー」とか「あー」とか唸りながら、笑顔のままだった。

――普通1時間も遅刻なんてしないでしょう……!!

井方君へと視線を移すと、彼も人の良さそうな笑顔を浮かべたまま、こちらを眺めていた。

「朝寝過ごしちゃった上に駅に来てから定期忘れたことに気付いて家にとりに帰って、もう1度ダッシュで駅に向かったんだけど目の前で快速が行っちゃって、次の電車まですごい時間がかかって、無事に乗れたんだけど今度は……」

まるで漫画のような言い訳を始めた城島君へ、石田君が「もう良いよ」と言って彼の口を塞いだ。