改札を抜けると、すぐにショッピングモールへの看板があった。
「徒歩1キロとかなめてるだろ。
田圃多すぎ」
素直過ぎる感想を口にしながら、石田君はゆっくりと振り返る。
「サツキ、大丈夫?」
私たちから少し離れたところに棒立ちしていた井方君は、すぐに顔を上げて「平気」と返事をする。
「バスとか金掛かるし揺れるし……」
直ぐ近くにあるバス停を見てぼやくと、石田君は井方君へと近づいて行った。
「サツキ、1キロとか歩ける?」
訊ねられた井方君は、ようやくいつも通りの表情を浮かべ、「余裕」と笑った。
「風野さんは、1キロなら歩ける?
ムリならサツキだけ歩かせて俺らタクシーで行けるけど」
分厚い革財布をいきなり取り出した石田君を、慌てて井方君が止める。
「1キロくらいなら平気だけど。
石田君はもう少し高校生らしい言動をした方が良いと思う……」
私が言うと、石田君は財布をバッグに入れ直し、つまらなさそうに宙を見上げた。
石田君が意外に非常識だということを知ったのは、これが初めてだった。
サッサと先に歩いて行ってしまう石田君の代わりに、井方君が私の隣りに並んでくれる。
「暑くない?平気?」
歩きながらそっと聞かれ、私は井方君を見上げる。
彼の三日月型の目は私の目を少しもずらすことなく見つめていた。
「私は平気」
なんだか恥ずかしくなりながら答えると、井方君は肩をすくめて笑うと、軽く私の手を握った。
「試験、全然できなかった」
小声で言われ、私も「そっか」と小さな声で答える。
私も井方君の手を握り返し、彼から目を離す。
「風野さん、彼氏いるのに」
振り返った石田君がジトっとした目で井方君を見ながら呟く。
井方君は「そうなんだ」と笑顔のまま私を見下ろした。
「梶っていう、お前より顔が良くて頭も良くて運動もできて常識ある奴。
性格も良いし、すぐ寝込んだりしないし、友達多いよ」
石田君に意地の悪い声で言われ、井方君は一瞬ムッとしたように顔を顰めた。
「女の子にベタベタ触ったりしないし……」
石田君がそこまで言ったところで、井方君は私と繋いでいない方の手を彼に差し出した。
「薫さん、仲間外れが嫌なだけだろ」
からかうように笑った井方君に、石田君は視線を私へと泳がせて来る。
――バカって怖いな……。
心の中で思いながら、私は石田君に笑い返す。
見せつけるように井方君は私と繋いだ手を高く掲げて、勝ち誇ったような表情のまま、自分より若干背の低い石田君を見下ろす。
苛立ちを堪えるように額に青筋を立てた石田君は、暫く井方君を見上げていたものの、やがて彼の額を人差し指で弾くと、私の空いている方の手を乱暴に掴んだ。
爪のほとんどない乾いた手は、ゴツゴツと堅く、角ばっていた。
私が手を握り返した時、石田君は一瞬だけ顔を顰め、パッと顔を逸らしていた。
「徒歩1キロとかなめてるだろ。
田圃多すぎ」
素直過ぎる感想を口にしながら、石田君はゆっくりと振り返る。
「サツキ、大丈夫?」
私たちから少し離れたところに棒立ちしていた井方君は、すぐに顔を上げて「平気」と返事をする。
「バスとか金掛かるし揺れるし……」
直ぐ近くにあるバス停を見てぼやくと、石田君は井方君へと近づいて行った。
「サツキ、1キロとか歩ける?」
訊ねられた井方君は、ようやくいつも通りの表情を浮かべ、「余裕」と笑った。
「風野さんは、1キロなら歩ける?
ムリならサツキだけ歩かせて俺らタクシーで行けるけど」
分厚い革財布をいきなり取り出した石田君を、慌てて井方君が止める。
「1キロくらいなら平気だけど。
石田君はもう少し高校生らしい言動をした方が良いと思う……」
私が言うと、石田君は財布をバッグに入れ直し、つまらなさそうに宙を見上げた。
石田君が意外に非常識だということを知ったのは、これが初めてだった。
サッサと先に歩いて行ってしまう石田君の代わりに、井方君が私の隣りに並んでくれる。
「暑くない?平気?」
歩きながらそっと聞かれ、私は井方君を見上げる。
彼の三日月型の目は私の目を少しもずらすことなく見つめていた。
「私は平気」
なんだか恥ずかしくなりながら答えると、井方君は肩をすくめて笑うと、軽く私の手を握った。
「試験、全然できなかった」
小声で言われ、私も「そっか」と小さな声で答える。
私も井方君の手を握り返し、彼から目を離す。
「風野さん、彼氏いるのに」
振り返った石田君がジトっとした目で井方君を見ながら呟く。
井方君は「そうなんだ」と笑顔のまま私を見下ろした。
「梶っていう、お前より顔が良くて頭も良くて運動もできて常識ある奴。
性格も良いし、すぐ寝込んだりしないし、友達多いよ」
石田君に意地の悪い声で言われ、井方君は一瞬ムッとしたように顔を顰めた。
「女の子にベタベタ触ったりしないし……」
石田君がそこまで言ったところで、井方君は私と繋いでいない方の手を彼に差し出した。
「薫さん、仲間外れが嫌なだけだろ」
からかうように笑った井方君に、石田君は視線を私へと泳がせて来る。
――バカって怖いな……。
心の中で思いながら、私は石田君に笑い返す。
見せつけるように井方君は私と繋いだ手を高く掲げて、勝ち誇ったような表情のまま、自分より若干背の低い石田君を見下ろす。
苛立ちを堪えるように額に青筋を立てた石田君は、暫く井方君を見上げていたものの、やがて彼の額を人差し指で弾くと、私の空いている方の手を乱暴に掴んだ。
爪のほとんどない乾いた手は、ゴツゴツと堅く、角ばっていた。
私が手を握り返した時、石田君は一瞬だけ顔を顰め、パッと顔を逸らしていた。