ふと石田君の横へ視線を移すと、迷彩柄の帽子を目深にかぶった男子が此方を見ていた。

帽子が顔に影を落としていたものの、端正な顔立ちから、それが井方君だということはすぐに分かった。

目が合うと、井方君は帽子をとらないまま微笑んで、手を低い位置でヒラヒラと振ってくれた。

「井方君、私服姿もカッコいいんだね」

思い浮かんだ感想を口にすると、井方君は少しも照れる様子もなく「ありがとう」と笑う。

「こいつも今日、友達とイオンなんだってさ」

石田君は井方君の肩を片手で引き寄せて、自分に靠れかからせる。

――女子とは指が触れただけでも顔顰めるのに……!!

少しだけ浮かんだ不服を直ぐに飲みこんで、私は「そっか」と笑う。

「薫さん、この電車ってトイレあったっけ」

ふと思い出したように石田君から離れて井方君が言う。

「いや、これ各駅停車だし……ないよ」

石田君が車両の両端を確認してから言うと、井方君はまた石田君に靠れかかった。

「なに、小便?」

男同士だからかごくナチュラルに訊ねる石田君に対して、井方君もまったく声色を変えずに「違う」と答えた。

私を目の前にしてそんな会話するなよ!と言い掛けて、私はパッと口を噤んだ。

石田君が慌てたように音を立ててバッグの中からビニール袋を取り出し、井方君に渡す。

井方君は無言で受け取り、使わないという意思を示すように自分のズボンのポケットへと捻じ込んだ。

「酔った?」

私が訊ねると、井方君の代わりに石田君が頷いた。

井方君の背中をさすりながら、石田君は頭上に掲示されている路線図を確認した。

「石田君、相変わらずお兄さんっぽいよね」

私が言うと、石田君は驚いたように私を見て、「だろ?」と子どものように笑って見せた。