「何なのあの白い人。
態度超悪くない?」

駅前にあるファーストフード店で、めぐちゃんが不貞腐れたように言った。

白い人、という言葉を梶君が慌てて「いっ君だよ」と訂正した。

「大体、何の権限があって同級生をパシってんの、あいつ」

めぐちゃんの言葉に、浅井君が困ったように笑いながら「さぁ?」と首を傾げる。

「あの人、後ろ盾がすごいらしいよ。
野球部の2年から聞いたんだけど……」

梶君が思い出したように言うと、井上君が小さく頷いた。

「赤坂って子とは小学校からの付き合い。
浦和には高1の時からずっと慕われている。
バスケ部の別格である井方とは同等な付き合い。
下級生とは一切口をきかないらしいし、相当お高く止まってるんじゃないの」

井上君の言葉に浅井君たちが露骨な苦笑いを浮かべた。

「それに、城島と互角なのに1年の時レギュラーに選ばれなかったこととかも根に持ってそうだよね。
あの人、一般受験で松林に来てるし」

井上君が続けて言う。

スポーツ推薦で入学したバスケ部員は1年の時から無条件でレギュラーになるのに対し、一般受験の生徒はどれだけの実力があっても雑用や筋トレを毎日やらされるという、酷い格差があった。

それだけの特権を振りかざせる程、スポーツ推薦は「選ばれたもの」であり、「特別なもの」とされているのだ。

「でも、あの子がそんなに悪い子には見えないけれど」

梶君がポツリと呟くと、めぐちゃんが「はぁ!?」と声を荒げた。

「何処からどう見ても典型的なDQNじゃん!
外見だけならまだしも言動もクズだし。
梶さ、良い人ぶりすぎじゃない?」

ずけずけとしたマシンガントークは健在らしく、めぐちゃんは梶君が耳を覆うまで延々と梶君を罵り続けた。

「めぐはそんなにあの子のこと見てないだろー……」

疲れたように耳から手を外して、梶君が項垂れる。

彼は、遊園地の時既にいっ君のことを知っていた。

恐らく1年前から何度か目にしていたのだろう。

「神経質なだけだよ。
気にしなくても良いことまで気にして、1人で疲れてるんだよ多分」

そう言った梶君は、俯いたままだった。

彼が思い出していることを何となく察して、私まで気分が沈みそうになる。

――どれだけ嫌な思いをしても他人を責めない……。

そんな損な性格は、梶君と城島君の唯一の共通点だと思った。