振り返ると、私の真後ろにいっ君が立っていた。

彼は私に小さく会釈をすると、城島君の前に立ち、彼を見下ろす。

「鍵、貸せ」

低い声で短く言ういっ君を、城島君が見上げる。

ズボンのポケットの中に入れていた鍵を城島君が差し出すと、いっ君はそれをパッとふんだくった。

「いつも通り、ぶどうのやつ」

城島君の言葉に、いっ君は「そう」と相槌を打つ。

「あと、ポカリ……」

そう言った城島君の髪を、いっ君は急に掴んだ。

「そんなもん頼んでないだろ」

傍に立っていた淳君が慌てていっ君の腕を掴んだものの、いっ君はそれを片手で軽く振り払った。

「参考書買って来いって言われて漫画も併せて買って来ましたーっていうのと、一緒なの。それ。
お遣いだろ?頼んだ分だけ買って来いよ」

いっ君のあまりにも低すぎる声と、鋭い目つきに、何故だか必要以上の緊張を感じてしまった。

「苦手なもの毎日飲ませるのが……可哀想だったから。
余計なお世話だったら、ごめん」

いっ君の手を掴み、片手で抵抗をしながら、城島君が小声で言う。

「苦手とか言ってないから、決めつけるな」

いっ君がパッと手を離すと、城島君はまた地面へと尻餅をつく。

「決めつけでもしないと、いっ君は自分のことなんか絶対に教えてくれないだろ」

ゆっくりと立ち上がった城島君は、自分より少し背丈の低いいっ君を見下ろす。

いっ君も顔をあげ、城島君を下から睨み直した。

「言う必要がないから言うてない」

そう言って城島君の頬を打つと、いっ君はまた腰のチェーンを揺らしながら体育館へと入って行った。

暫くした後。

「帰るから」

淳君がそう言うと、城島君はパッと姿勢を正した。

直ぐにその場でお辞儀をして、彼は私たちを見送ってくれた。

校門を抜けると梶君たちが待っていてくれた。

「見えてた?」

淳君が訊ねると、梶君は気不味そうな表情のまま、小さく頷いた。