中間試験2日目の朝。

校門前で桜庭さんと会った。

彼女は私に気付くとペコリと会釈をしてから小走りで寄って来た。

「先輩は、今日も保健室受験ですか……?」

潜めた声で聞かれ、私は「そうだよ」と同様に小声で返事をする。

桜庭さんは安心したように胸をなでおろすと、私の横にぴったりと並んだ。

1人で別室受験することが心細かったのだろうか。

進級してから邪気のない女子から話しかけてもらうのはこれが初めてだったから、少しだけ嬉しくなった。

2人で下足室で靴をはき替え、保健室へと向かう。

『開いてます』というプレートのかかった扉を開けると、井方君と保健医さんが既に来ていた。

「井方君、2日連続なの?」

私が訊ねると、井方君は「だから違うって!!」と早口に言い、ソファに靠れかかった。

「これから俺、保健室使うたびに腹下し扱いされそうな気がするんだけど、気のせいかな」

深刻そうな表情で呟く井方君に、桜庭さんが小動物のように遠慮がちに寄って行く。

井方君がさりげなく座る位置をずらすと、桜庭さんは彼の隣りに腰をおろした。

不思議そうな表情を浮かべる井方君と、恥ずかしそうに俯く桜庭さんを見比べ、保健医さんが微笑ましそうに笑う。

「井方君、その子は1年の桜庭さん」

保健医さんが紹介をすると、井方君は隣りに座った桜庭さんを見下ろしながら「はじめまして」と小さく頭を下げる。

「昨日もいたよね。教室入れないの?」

井方君に訊ねられた桜庭さんはコクコクと頷き、「うん」と小さな声で言った。

「桜庭さんは、1年Bクラスなんだよ」

保健医さんがそう言うと、井方君は「マジで!?」と大声を上げて桜庭さんをまじまじと見る。

「丹羽先生が担任って……そりゃ教室入れなくもなるよね」

丹羽先生がバスケ部の顧問の名前だと、井方君の口ぶりから知ることができた。

井方君はポスポスと桜庭さんの髪を叩くように撫でると、満足そうに立ち上がる。

「じゃあ俺、教室行くから。
またね」

桜庭さんに向かって手を振ると、井方君は一礼をして保健室を出て行った。