静まり返ったキッチンに、そんな音が響きわたる。
「……もう帰れよ、知景」
それは澪が彼を殴った音。
ではなく、シンクの上に置いてあった土鍋を、澪がフローリングに叩きつけた音だった。
まだほんのり湯気の上がった白いおかゆが、割れた土鍋の破片と一緒に床一面に散らばる。
それを澪は、虚しそうな瞳で見つめていた。
「……薬、ちゃんと飲めよ」
「…………」
怒ってしまったのか。
呆れてしまったのか。
そう心配したが、知景は案外あっさりした表情でそう残し、リビングから出ていった。
「……澪、薬飲もう」
緊迫した空気のなか。
やっとでた私の一言は、そんなものだった。


