電車に乗ると、あたしたちは座らず、ドアの前に立った。

 ほかの学校の生徒たちも周囲にいて、車両のなかが騒がしい。

 すぐ近くにいる女の子が「ねーちょっと! 来たよ!」となにかを見ながら、近くの友達とおしゃべりして、はしゃいでいる。

 きっとあたしだってああいう風にしゃべっているのに、いまは女の子の楽しそうな声が耳障りに感じる。

「スマホって便利だな。今日初めて行くのに、地図もあるし」

 六坂は、すっかりいつも通りの口調になっていて、「ほら」と自分のスマホの画面を霧恵とあたしに向けた。でも、ちょっと作り笑いをしているんじゃないかな、と六坂の顔を見て思った。作り笑いを笑顔に見せかけるのは難しい。

「あー、免許なくても乗れる車ないかな」

 いきなり六坂が言いだした。

「自家用ヘリってあるじゃん。自分で好きなデザインでつくれる車あったらいいな。車欲しい」

 口から出るままにしゃべっているようだった。

 あたしは電車の外を眺めていた。これから、六坂は悲しい思いをするに違いないのに、何で急に、車が欲しいだのなんだのって。好きなデザインでつくれる車かぁ。ぼんやりと、本当につくろうとしたら実現できそうにない、あり得ない車のデザインを好き勝手に想像していた。

 もし六坂が車をつくったら、そこにあたしや霧恵は乗せてもらえるだろうか。