――

 聞こえた。

 近くを通った瞬間、聞かなくていいものを聞いてしまった。

 聞こえたせいで、つい先週、18歳の男子がいじめを苦に自殺したことを思いだしてしまった。

 ネットで見た記事だった。テレビのニュースでは放送されなかった。無味乾燥。そんな言葉
がなぜか出てきた。

 僕より1つ年上でも、人生を自分から終わらせる人がいる。

 命は時間だ。でも、どう生きたかだって大事だ。

 なぜだろう。僕は見ず知らずの彼の自殺に、心が揺れた。


 中学生のとき、僕はいじめを無視した。

 正確には、身を守ったというべきか。

 同じクラスのやつが、同級生で別のクラスの不良に目をつけられたのだ。

 次は音楽の授業で、みんな教室から音楽室へ移動する際、その不良はいきなり教室に顔を出し、
「おい」
 とそいつに声をかけ、二人は行ってしまった。二人の会話は聞こえなかったが、問答無用で連れていかれたのだろう。

 音楽室に行った僕は、そいつが休み時間が終わろうとしているのに、まだ来ていない事実に気づいた。

 しかし誰も、そいつの名前なんて口にも出さなかった。空気と化していた。