部屋の中をうろうろしているエリーシャを外に追い出したのは、イリアだった。

「……荷造りできません、エリーシャ様」
「だって、退屈なんだもの」
「睡蓮邸にでもお出かけになってはいかがですか?」
「えー」

 アディリアへの隠遁が認められて一ヶ月。エリーシャが皇女宮を出るための準備はあわただしく進められていた。

 エリーシャのすぐ側に仕えている四人の侍女――うち一人は魔術師である――の他に皇女宮で働いている下働きの使用人たちも含めて毎日皆忙しく働いている。

 表向き隠遁生活に入ることにはなっているけれど、皇女ともなれば身一つで出て行くというわけにもいかない。

 持って行かなければならない荷物もそれなりに多い、というわけで人手はどれだけあっても足りないのではあるが。

「エリーシャ様、なぜ今畳んだものを出すんですか」
「……着ようと思って」
「着ない、とおっしゃったからつめようとしたのですが……」

 服を引っ張り出しているエリーシャに、ファナは困惑している。

「本はどうするんだい?」

 苦笑いでその様子を眺めていたベリンダがアイラにたずねた。