「その演技は今は忘れておけ」

 演技しろと言ったり、忘れろと言ったり忙しい話だ。混乱してアイラは眉間にしわを寄せる。

「つけられているのに気づいてないのか?」

 思いがけない事態に、アイラはぶんぶんと首を横に振った。

「まあいい。これを持っておけ。合図したら左右に分かれて道ばたの藪に飛び込むんだ」

 イヴェリンがアイラに渡したのは、ロープの端だった。

「いいか、しっかり握ってるんだぞ。何があっても離すな」

 イヴェリンの声にアイラはそのロープを手に二重に巻き付けた。

「行け!」

 命じられるままに道ばたの藪に飛び込む。

「いたたっ!」

 小枝が手足に突き刺さる。次の瞬間、だだっと走る足音がしたかと思うと、手にしたロープがぴんと引っ張られた。