そこを離れると言うことは、組合の掟から自由になるということでもあるが、反面、自身の研究に遅れが生じる可能性があるということでもある。

 入手できる情報量がまるで違う。したがって、組合を離れる魔術師はよほどの変わり者ばかりだ。

「離れて何してるの?」
「暗殺者として、どっかの誰かに雇われてるらしい――てのが魔術師仲間の間に流れている噂話だ。その報酬で、あいつは自分の研究に邁進してるってわけさ」
「自分の研究って?」

 興味深そうに、エリーシャはジェンセンの方へとわずかに身を乗り出した。

「不老不死――というか、美貌を保つ術、と言った方が正しいだろうなぁ」
「ずいぶん、詳しいのね――『パパ』?」

 パパという単語に嫌みをこめて言ってやると、ジェンセンはははっと豪快に笑った。

「いやー、パパ昔彼女とおつきあいしていたことがあってねぇ。その時にいろいろ教わったんだよ」
「……この、くそ親父!」

 ――ほんのちょっとの間だけだけどね、という続きの言葉はアイラのスリッパによって阻まれたのだった。