ああ、だから父の書物を売るな、とイヴェリンは言ったのか――父の借金を減らすことくらいできると思っていたのに。

 エリーシャは、ジェンセンの話が終わるまで外で待ってくれていたらしい。ジェンセンが出て行くのと入れ替わりに、皇女の侍医がアイラの身体を診察してくれる。

 重傷ではあるが、後遺症は残らないだろうという見立てにアイラはほっとした。

 侍医が出て行った後、エリーシャの他の侍女たちも部屋に合流する。いつものようにファナがお茶の用意をして、部屋の中にいい香りが漂う。

 アイラには、イリアが薬湯を用意してくれてそれを差し出された。

「言っておかなきゃならないことがあるの」

 ベッドの周囲にエリーシャとイリアとファナが座る。それからエリーシャは厳しい顔で切り出した。

「イヴェリンの見立てでは、今回の襲撃、首謀者じゃないにしてもおばあ様が絡んでいるだろうって――皇女宮に戻っても今後は気をつけなきゃならないと思うの」

 侍女たちは顔を見合わせる。皇后オクタヴィアが、エリーシャの襲撃に関係している? そんなことがありえるだろうか。