皇女宮に戻る途中も、戻ってからも、エリーシャはほとんど口を開こうとはしなかった。
 
 男装に身を包んだ二人連れは、裏口と化している隠し通路から無事に中に戻ることに成功する。
 
 今日はフェランにもライナスにも見咎められることはなかった。

「明日――朝一で皇女近衛騎士団の団長と副団長に会えるように手配しておいて。遅くて悪いけど」
「かしこまりました」
「入浴は自分ですませるから、あなたもお風呂使ってきちゃいなさい。手早く、お願いね」
「わかりました」

 アイラはエリーシャに一礼すると、ばたばたと駆け出す。自分の部屋に飛び込んで侍女のお仕着せに着替えるのは忘れなかった。

 深夜のこの時間だ。髪は解いたままでもいいだろう。

 皇宮内でも、政治の場である前宮から、皇帝のプライベートな空間である後宮に入るまではいくつかの扉を通過しなければならない。
 
 それぞれの扉は、皇宮騎士団の騎士によって厳重に警備されている。
 
 皇女宮から後宮内の他の区画へ向かうための通路に通じる扉は、皇宮騎士団に属する者の中でも、皇女近衛騎士団に配属になっている者にしか守ることは許されない。