「……なんで早坂が泣くんだよ」

「……泣いてないよ」



答えた声は、明らかに涙声だ。

名良橋君はふっと笑い、言葉を続けた。



「別に、悲しくなんかねぇよ。ただちょっと、悔しいだけ」



名良橋君が、嘘を吐いた。

少し――ほんの少しだけど、名良橋の顔が歪んだ。

本当は、悲しいんでしょう?

悔しいのは、ちょっとじゃないでしょう?――なんて、私には訊ねる勇気もないんだけど。



「……私と、その梨央さんは似てたの?」



私の問いに、名良橋君は首を横に振った。

そして、「正反対だよ」と呟く。



「けど、重なった。いなくなる前日の梨央と――早坂が」



重なったのなら、きっと梨央さんも苦しかったんだろうな。

本当はずっとここにいたくて、だけどいられなくて。