「……意味わかんねぇんだけど」

「お前、大会前に事故ったことあったろ。あのときに頼んで書いてもらったんだ」



封筒の表面には懐かしい早坂の字で、【名良橋君へ】と書かれている。

その瞬間、蘇ったのは忘れることの出来ない16年前の早坂の笑顔。



「本当はもっと早く渡したかったんだけど、早坂さんに頼まれてたから。命日の晴れた年に渡してくれって」



言いつつ、高野は席を立った。

気を利かせて帰るつもりなんだろう。

それをわかっていたから、俺は敢えて顔を上げなかった。

玄関の方でまたな、と声が聞こえ、バタンと扉の閉まる音がする。

そして、代わりに小さな影が近付いてくる。



「ぱぁぱ」