それはカップルというより仲の良い友達な光景だけど、ぼくは楽しかった。


仲井さんからイラストの話を聞けることで、ぼく自身に宿る彼女の気持ちも弾むし、彼女も話すことでより一層、その楽しさをぼくに教えてくれた。


映画を語るぼくの気持ちも仲井さんに伝わっているのかな。

だとしたら、ぼくは嬉しいな。


また、仲井さんと話せば話すほど、彼女のイラストに対する熱意を知る。

好きだという気持ちは、彼女が語っている時点である程度伝わってくるのだけど、実際本人から絵にまつわる話を聞くと、その気持ちが本物だと思い知らされた。


例えば、仲井さんが一枚の絵に費やす時間。

てっきりぼくは一日で終わるものだと思っていたけど、本当はもっと掛かるもので、

まず資料集めに一時間から二時間。構成に三時間。ラフに一時間、下書きに三時間……と、気の遠くなるほどの時間を掛けていた。


完成まで三日は掛かるんだって。


しかもこれは調子が良い時の話で、描けない時は一週間経っても、二週間経ってもだめだそうだ。

ぼくのデッサン時間なんて足元にも及ばない。


絵のド素人には、まず資料集めに時間を掛ける意味が分からなかった。

きっと絵を描く人にしか分からないこだわりがあるんだと思う。

仲井さん曰く、資料が多いほどイメージがし易く描きやすい、だそうだ。

何がどうイメージをし易いのか、やっぱりぼくには分からない。


ある日、仲井さんがスケッチブックに教室から見える風景を描いてくれたんだけど、手元を見る時間なんて数秒だ。


常に風景を観察し、彼女の見える景色を紙面上に描いた。


「見たものをそのまま形にできるなんて、絵が描ける人は魔法使いの生まれ変わりかなんかじゃないのかな」


ぼくが真面目に言うと、仲井さんはおかしそうに笑った。