「旭、ぼくは少しずつ前に進んでいるよ。怪我も完治した。ギターと向き合うことだってできた。こうしてお前に会いに来ることもできた」


だからもう、ギターを弾くことに負い目を感じて欲しくない。

ぼくを負い目に感じて欲しくない。


ハブられたことだってあったし、責められたことだってあったし、傷付けられたことだってあったけど、ぼくもお前もギターが好きだ。それに変わりはない。


もう充分だ。

旭はずいぶん苦しんだ。ぼくが逃げてしまうことで、お前を苦しめていた。ぼくもお前を傷付けていた。

いつの間にか、旭のギターを好きな気持ちを奪っていたよ。


「ぼくは今、ギターが好きだよ。やっていて良かったと心から思う。お前とも会えたしな。旭はギターが好きか?」


質問に答えは返ってこない。

ギターを抱えたまま、旭は体を震わせて何も言わなくなってしまった。

「ごめんな」ずっと避けていたことを謝罪すると、「謝んな」上ずった声で突っぱねられる。

謝って欲しくない。謝る要素なんて何もないじゃないか、と旭。

それはぼくだって同じだ。旭に謝って欲しくない。もう終わったことだから。


「英輔……笑うかもしれねぇけど、おれ、ひとつ悔しいことがあってさ」

「なんだよ」


「あの学園祭でお前がギターを弾いているのを見て、なんであの頃……お前と一緒に弾けなかったんだろうって。まじもう、どうしようもねぇよな。自分で蒔いた種なのに。あの頃、一番おれはお前と近かったのに」


ちょっとしたすれ違いで、ぼくと旭は正反対の道を歩み始めた。

ギターを続けた旭と、ギターをやめたぼく、どっちがつらい道だったんだろうな。

けど、またこうして同じ道にたどり着いた。

ずいぶんと曲がりくねった道を歩いたけどさ。


「旭。笑うかもしれないけど、ぼくにはひとつの夢がある」

「……なんだ、夢って」


「いつかまた。お前達と一緒にギターを弾きたい。叶うなら、ステージに立ってさ」


これはクダラナイ夢だろうか。

旭に聞くと、「笑うかよ」と、また突っぱねられた。


旭は言う、自分も同じ夢を見ていた。叶わないと知っていながら、同じ夢を見ていた、と。


そうか。同じか。なら笑われる心配はないか。ぼくは肩を竦める。