「秦野知紗ちゃん。春佳(はるか)と同じ学校でしょ?」 井岡篤樹は腕をやんわり外しながら、春佳というらしい彼女に話し掛ける。 「えー?春佳、知らなーい」 可愛い声で言って、また井岡篤樹の腕に絡みつく彼女。 「……ごめん、時間取ったね。じゃあ、春佳行こう」 井岡篤樹はため息をついて謝ると春佳という女の子と人混みの中へ消えていった。 なにこれ。なんで胸がモヤモヤするの? 「春佳……って、やっぱ彼女なんだろうな……」 ポツリとつぶやいたあたしの小さな声は風にさらわれた。