「よう、東條。久しぶりだな。

一杯、いかないか?」



専務室の扉から、顔を
覗かせたのは。


経理部時代の上長ーーーー

…つまりは、当時の元経理部長で。



「…いいですね。行きましょうか。」



かつての、上司と酌み交わす酒に
最近、滅入りがちだった気分が
多少なり紛れたのだけれども。


若い頃には、しなかった
ちびりちびり呑む酒が
じんわり後頭部を麻痺させる。


フンワリした気分に酔いかけた
まさにその時、


「さっき、水谷から聞いたんだがな。」


突然、切り出された
元上司の言葉に、何か
閃きに似た感覚を覚える。


……この人は……



“カノジョ”の話をしようと
している。


…と、直感が、告げる。