「今日雇ったばかりでそんなことは言えないよ。他国の人間の俺を雇ってくれただけでもありがたいのに贅沢は言えない」

「野宿になってもですか?」

「あぁ、そうだな」

欲がないというか、潔いというか。

リーシャはライルの即答にそんな印象を抱いた。

そしてそれは少なからずリーシャの心を動かした。



「あの……」

自分でも何故ここで口を開いてしまったのかと思った。

しかし、気づいたら言葉にしていたのだ。



「……っていいです」

「え?」

リーシャの口からこぼれた言葉は小さく、ライルには語尾しか聞き取れなかった。

一大決心の詰まった言葉が伝わらなかったリーシャは途端に恥ずかしくなり、横を向いて俯く。


「すまない、リーシャ。もう一度言ってくれるか?」

ライルの柔らかい声に導かれるように、リーシャはゆっくり顔を上げる。

月明かりの下でもはっきりと分かるくらいに顔を赤く染め、言いにくそうに口を開いた。



「……うちに泊まってもいいですと言ったんです」

やや早口で告げられた言葉はライルを驚かせるには十分だった。

それもそのはず、リーシャには一度断られているため、今日の今日で心変わりをした理由が分からないのは当然だ。