「ねぇ、お兄さんってば」
珍しく娼婦の方が躍起になって男を引き留めるのを聞いて、ふと興味を持った。
呼び声に答えない客は追わない主義の娼婦が声を大きくして呼び止めるほどの男とはどんな男かと。
「お兄さんって俺のこと?」
やっと応えた男の声に聞き覚えがあり、振り返った先にいた男にリーシャは目を見開いた。
「俺のことって、お兄さんしかいないじゃない」
「周りには他にも男の人はいるみたいだけど?」
妖艶な女の笑みに真顔で答えるのは、リーシャが昨日拾った男ライルだった。
(なんでここに!?)
数メートル先にいるライルに焦るが、ライルもモリアを目指していたのだ、また会う可能性だってある。
「お兄さんだってここが娼館街だと分かっていてここらをふらついてるんでしょう。良かったら私を買わない?」
「誘いはありがたいんだが、やめておくよ。娼館街とは知らずに迷い込んだみたいで勘違いをさせてすまなかった」
ライルのまっすぐな物言いに娼婦の表情がピクリとひきつる。
娼婦にもプライドというものがある。
彼女たちは皆、男の目を引くように美しく着飾り、手入れなどを欠かさない。
笑みひとつ浮かべず困った表情をする男も珍しかったのだろうが、今のような言い方ではプライドもずたぼろだろう。

