戦いにおいても常に冷静であり続け、またそうあるように努めてきたライルにとって感情のコントロールなど容易だったはずだった。

だが今は街のごろつきレベルの男の言葉を聞き流すことができずにいる。

何故聞き流すことができないのか。それはリーシャへの侮辱が聞くに堪えないからだけではない。

先ほどから我が物顔でリーシャのことを話すロネガンに苛立っていたからだ。


察したくはなかったが、言葉の端端を繋げると、どうやらロネガンとリーシャは昔付き合っていたことは分かった。

純粋なリーシャを言葉巧みに騙し、魔女と知って捨てたか。

リーシャと初めて会ったあの朝、あんなに怯えた様子を見せたのは何か訳があるとは思っていたが、その理由が今分かった。

思えば会ったばかりのリーシャはニコリとも笑わなかった。笑ったかと思えば遠慮がちで控えめな笑みばかり。

しかし、最近ようやく見せてくれるようになった屈託のない笑みはとても自然で、リーシャは元々良く笑う子だったのだろうと思う。

その笑顔を奪った原因の一つは間違いなく、ロネガンであり、周囲の人間だ。





“似た境遇に同情したか?”


不意にゼイアスの言葉が頭を過り、ライルは眉を寄せる。

これは決して憐みによる同情ではない。いわば友情のようなものだ。友人が侮辱されて平気な者がどこにいる。

ライルはもうここにはいないゼイアスに言い訳のような言葉を頭の中で並べた。

しかし、ライルはこの時、自分の中に同情でもなく友情でもない厄介な感情が入り混じっていたことには気づかなかった。




「おい、聞いてるのか?」

遠のきかけていていたライルの意識がロネガンの苛立った声で戻る。