『お前はリーシャを追え、ゼイアス。あとは俺が片付ける』

『あの魔女を追うよりもこちらの方が楽しそうだがな。我が主の命なら仕方ない。あの男を殺りたくなったら呼べ。すぐに戻ってくる』

『…あぁ、分かった』

溜息と共に落とされた言葉にゼイアスはライルの影からスッと消えた。

そして、気分を入れ替えるように息を吐き出し、腰を抜かして放心したままのジャンに手を差し出した。




「君、名前は?」

「ジャン…」

ライルが声をかけるとジャンは夜空を見上げていた視線をゆるゆるとライルの方に向け、自分の名を呟いた。



「ジャン、もう夜も遅いし家に帰りなさい。リーシャは俺が迎えに行くから」

ライルの口からリーシャの名が出たことに訝しげな表情をするジャン。

リーシャとは長い付き合いのジャンだが、リーシャはいつも一人だったし、店にもいつも一人でしか来たことがなかった。

そのため、ジャンにはライルがリーシャと知り合いの様には思えなかった。

リーシャとの関係を問おうとジャンが口を開こうとした時、横から思わぬ邪魔が入った。




「おい待て。そいつとの話はまだ終わってないんだ。帰ってもらっちゃ困るな」

「いや、もう終わってる」

横槍を入れたロネガンの手下に一瞬ライルの瞳が剣呑な光を放ったのをジャンは見逃さなかった。

ライルは男たちを無視し、ポケットから紺色の布が巻かれた木札を取り出した。



「おじいさん、おばあさん。あなた方が持っていたのはこの札ですか?」

「なッ!それは……」

「おお、そうです。これをどこで?」

やはり落としていたのだと思った老夫婦はお互いの顔を見合わせて喜ぶ。