「クソッ…お前何をした!」

赤くなった右手の甲を抑えながらリーシャを睨み上げるロネガン。その瞳は訳も分からずに襲われた恐怖に動揺していた。

しかし、困惑しているのはリーシャも同じだ。消魔石によって指輪の効力は切れていたし、ロネガンの手がはじかれたのは杖を振りかざす前の出来事だった。

一体何が起こったのか。リーシャが逃げるのも忘れ困惑していると。



「リーシャ」

落ち着きのある柔らかな声がリーシャを呼ぶ。先ほどの冷たく鋭い声色とはうってかわって、普段家の中で聞いている心地良い声に引かれ、リーシャは条件反射で顔を上げてしまった。

ようやく顔を上げたリーシャにライルはハッと息を飲み、目を見開く。

まるで見知らぬ者を見る様な目にリーシャは胸がギュっと締め付けられ眉を寄せた。

やはり顔を上げるんじゃなかった。こんな姿を見られたくはなかった。

リーシャは固く口を結んで俯き、杖を振り上げる。消魔石は先ほどの衝撃でどこかへ転がって行った。

もうリーシャを止める手段が無くなったことを知るや否や観衆は一瞬にしてパニックとなり、輪を崩して逃げ出す。

人間に無下に扱われた魔女が解放された途端杖を振り上げれば誰もが反撃をするために魔法を使おうとしていると思うだろう。リーシャはそれを計算していた。

人々が逃げ惑う中、リーシャは踵を返して広場の端に歩を進め、立てかけてあった箒を手に取った。




「リーシャ!待って!」

ライルはリーシャが何をしようとしているか分かり、思わず口を開く。

するとリーシャは顔だけこちらを振り返り、困ったように笑いながら小さく笑い、浮遊魔法をかけた箒に乗ってあっという間に夜の闇に消えた。