しかし、嬉しそうに笑うメリアーデに対して、リーシャの表情は冴えなかった。

メリアーデは“普通”という言葉に含まれたリーシャの想いを知らない。

魔女という境遇故に誰かの一番になりたくても、叶わないジレンマ。

そしていつからかそんなことを考えることも諦めていた自分。

誰かを愛することに臆病になるあまり、無意識に押し殺してきた感情がじわじわとリーシャの心を侵食していく。



そして、久しく忘れていたその感情の正体がやっと分かった。


けれどこんなタイミングで気づきたくはなかった。




ライルが好きだなんて…―――


口では誰のものでもないといっておきながら、自然体でライルに寄り添える女性に嫉妬していたのだ。

気づいたところで何が変わるわけでもない。なぜならこれは不毛な恋なのだから。

何もかもが完璧なライルには見合わないこと、期間限定の同居生活であること、そして魔女であることを隠していること。

もし魔女であると知られれば、いくら優しくて寛容なライルでも遠ざけるだろう。

誰もが最初は優しくても正体を明かした後は誰もが驚嘆と冷たい瞳をして離れていくことをリーシャは知っている。

時にはあからさまに避けられ、時には「気にしないよ」といいながら疎遠になり、最後には音沙汰もなくなる。

そんなことを繰り返すうち、色恋沙汰からは目をそらすようになり、関わらなくなった。