「……けど、あの魔女は本当に国の敵だったのかな」

「どういうこと?」

ライルの問いかけにリーシャは重い口を開ける。



「あの魔女は純粋に王子のことが好きだったんじゃないのかなって。もし、あの魔女が呪いをかけた本人ではなかったなら、きっと魔女は何か大切なものを犠牲にしたはず。だって人の生命を脅かすような強い呪いだったんだもの」

リーシャはいつしか、もし自分があの魔女の立場だったらと考えていた。

純粋に王子を愛し、何らかの代償を経て呪いを解いていたとしたら、あの仕打ちは魔女にとってあまりに可哀想ではないかと。

劇に仮説を立てて語っても興ざめすることなんて分かりきっている。

けれどリーシャは止まらなかった。




「身分の違いで結婚は出来ないにしろ、王子を助けたのは魔女だってことも王子は知らないのよ。あれでは魔女があまりにも可哀想だわ」

リーシャは笑われることを覚悟していた。劇ひとつに何をそんなにむきになっているのかと言われると思っていた。

しかし、ライルはからかうでもなく、笑うでもなく、リーシャの頭にポンと手をのせた。




「そうだな。きっと王子もその事実を知ったら魔女を無下に国外追放などさせなかっただろうね」

ライルから返ってきた意外な言葉にリーシャは驚いた。と同時に無性に熱いものがこみ上げ、瞼を熱くする。

ライルにとっては話を合わせただけの会話だったとしても、リーシャは確かに救われた。

こみ上げる涙をぐっと我慢し、耐える。