すると透明だった石はエメラルドとなり、光彩を放つ指輪を男の頭から爪の先までを撫でる様に宙を滑らせると、数秒後男の体が地面から僅かに浮かんだ。

すかさず地面と男の背の間に手を滑らせ、肩を担ぐようにして一緒に立ち上がる。

男の背丈は高く、屈んだ状態でやっと頭が並ぶくらいだ。

男に使ったのは魔法の一種で、リーシャはこの世界に数百人いるかいないかと言われている魔女の一人だった。

指輪には魔法の源泉であるマナを凝縮させており、男の体を持ち上げたのは風の魔法を利用した。

魔法を使えば男の体を軽々と持ち上げることも可能で、一気に家まで飛ぶことも出来るのだが、まだ陽も落ちていないうちは人々の目に触れる危険性があるため裏路地を渡り歩いて帰ることにしたのだ。

それにしても、この美丈夫な男は一体どこからやってきて、何故あんなところに行き倒れていたのだろうか。

厚手のローブの下には質の良い服を着込み、腰には剣も見える。

この街の住人ではない事は確かだが、男が倒れていた付近には荷もなかった。

連れて帰ると決めたはいいものの、こんな身元も不明かつ怪しそうな男をこのまま家に入れても大丈夫なのだろうかと思いながら路地の角を曲がった時だった。



「おや?裏路地に人とは珍しい」

片手に酒瓶を抱えたおじさんがふらふらとした足取りでこちらへ向かってくる。

咄嗟に男の足を地面に着け、さも歩いているように見せた。