馬車の小さな窓の向こうで、木々が、雲が、鳥が流れていく。

のどかな風に当たりながら、アルディスはぼんやりと風景を眺めていた。

城で皇王やレオドルから見送られてた出立から、半時ほどたった。

民家が立ち並ぶエリアはもうとうに抜け、今は山間部に入ったところだ。

出発の時はまだ昇っていなかった太陽も、ようやく顔を出しはじめている。

(……心地いい)

アルディスは、爽やかな朝の空気や、まわりののびやかな景色を心地いいと感じた。

(皇宮から外に出たのなんて、何年ぶりだろう……)

もちろん皇宮の外を外に出て、晩餐会などで離宮に行くことはあった。しかし、目的がそれではない外出は……。

(かなり、久しぶりだ……)

もしかしたら、彼女が誘拐されたあの時以来かもしれない。

三日ほど前に父親が、安心させるように言ってきた言葉を思い出す。

『レオドルが手配した、有能な騎士を四人、護衛につけた。旅で恐れる事はないよ』

口には出されなかったが、あの誘拐の事を言われているとすぐにわかった。

(私は別に、怖くて旅を拒んだわけではないけれど……)

誘拐され、殺されることを恐れたことは一度もない。

大して生きることに執着してない自分に、そんな恐怖は必要ない。




     *   *   *




一方、馬車後方15メートル──……。

「……なあなあ、イグナス~」