(だめだ……外れない)


そう簡単に逃げられては困るのだろう、拘束具は頑丈なつくりのようだ。


リリアスは今更ながら、一瞬でも気を抜いてしまった事を後悔した。


おそらく、向こうも警戒されていることがわかっていたのだろう。だからすぐには手を出さず、わざわざ睡眠薬を食事にはいれず嗅がせるという確実な行動に出たのだ。


(しまったわ……オリビアたちが屋敷にいないんじゃ、助けなんて求められないし)


まして身動きがとれないとなれば……何をされても、抵抗が出来ない事になる。


(でも……誰がやったの?何のために?)


リリアスは下唇を噛みしめながら、自分に問いかける。


あの歴史の古くから忠誠を誓ってきたベリリーヴ侯爵家が皇女に危害を加えようとする意味も理由もわからない。


これが別の貴族だったらわかるのだが……いや、そうだったら泊まってはいないか。


顔を見せなかった侯爵。これは、彼が企んで、行ったことなのだろうか?


しかし、幼き日に見た侯爵を知っているリリアスからは、どうしてもそれは考えられないのだった。


侯爵は、皇王やレオドルとも同い年で、旧友だと言っていた。とても親しげに言葉を交わしていたことを覚えている。


いや、むしろ、顔を見せなかったのは侯爵が既に彼女と同じように何者かの手に落ち、監禁されているから、という可能性も考えられた。


(でも、だとしたら、誰が……?)


今度は、思い浮かぶ人は沢山いた。皇王に敵対している人は多いのだし、交渉材料や人質として、彼女を捕まえておくということもあるだろう。