技術局勤務になってから三日目の夜、満月をゆっくり眺めようと思い部屋の外に出ると、自室前の中庭へと降りる石段に紗也が待ち構えていたのだ。

 別に用事があるわけでもなく、少し話をすると満足したように笑顔で自室に帰って行った。

 その後も月の見える晩には必ず石段に座っている。
 もうすぐ冬になろうとしているので夜気はかなり冷たい。

 自分が出て行かなければ諦めて帰るだろうと思い、一度気付かぬフリをして放っておいたら三十分経ってもずっと帰ろうとしない。

 結局根負けして出て行ってしまった。

 紗也は夜に出歩く時、部屋付きの女官たちを薬で眠らせていると言っていた。
 毎夜のように眠らされていては女官たちの体調も危ぶまれるし、その内気付かれてしまうだろう。

 紗也が女官たちを眠らせてまで和成に会いに行っているとばれてしまえば、噂好きの女官たちの間で妙な噂が立ちかねない。


「呼んでくださればこちらからお伺いしますと何度も申し上げたのですが、”別に用がある訳じゃないから”と聞き届けていただけないんです。塔矢殿から注意していただけませんか?」


 塔矢はひとつため息をついて目を伏せた。