竹井遼の右手が雪美の顔めがけて振り下ろされると、パン!という音がした。


雪美は思わず目をつぶったが、目をあけるとそこに松永の大きな手が覆っていた。


「松永先輩!」


「大丈夫か?違反の上に暴力とは罪がますます重くなったな。
竹井遼クン・・・。」



「クソッ、ナマイキ女を守ったつもりか?バカが。」


竹井は伸ばした右手で雪美の髪を引っ張って引き寄せ、登校生徒たちの前で無理やり雪美のブラウスの襟に両手をかけ、笑いながら叫んだ。


「みんなの前ではずかしい姿を見てもらおうか。」


雪美は襟といっしょに竹井の両手で喉をおさえられて声も出せずにいた。


(く、苦しい・・・。)


「楽にしてやるよ、俺の両手を広げると中身がま~る見えだ。
ふふふ・・・。おわっ!!!ぐっ・・・!」



「僕も先生から説明は受けていたけど、一からマナーをお教えしなくてはいけないとはねぇ。

君には最高の罰則が待っているけど、校舎に入る前に最低限守ってもらわないといけないことは従ってもらいます。

彼女が言った、髪を束ねることと服装を正すこと。
そして、放課後は僕が手取り足取りルールをお教えすることにしましょうか。って・・・あぁ、ちょっと勢いをつけすぎたかな。
立ち上がりにくそうだね。」



「咲、ナイスフォロ~ありがと。浅岡!大丈夫か?」



「ゴホッ・・・ぜぇぜぇ・・・松永先輩。だ、大丈夫です。
すみません、私が少し油断してしまって・・・。
で、どうなっちゃったんですか。私少し意識が薄れちゃってたんで・・・。」



「おぉ、竹井クンが我が校の王様のリハビリにつきあってくれてね~きれいな足を顔面で受け取ってくれたんだ。

ちょっと勢いがあったみたいで、竹井クンはのびちゃったけどね。

あとで会長にお礼は言っておけよ。」


「は、はい・・・。」



竹井は蹴られた頬を押さえながらも、悪態をついていた。

すると、雪美は竹井を恐れずに再び言い放った。



「そんなにほんとの自分を見せるのがはずかしいの?
あなたも本当の自分を見てくれない学校の態度を逆手にとって、自分をわざとごまかしてない?

悪いレッテルに慣れてきて、むしろ悪いことがカッコいいような気分になってきたんでしょう?

だけど、ここではそれ意味ないから。
うわべだけで悪い子してもいい子になっても、すぐに意味がないことを証明されちゃう学校だから!」



「確かにな・・・。生徒会長ってやつが俺の顔面にいとも簡単にケリいれたなんていうのもびっくりしたぜ。

それにちび1年のクセに・・・ククッ、そのまっすぐで俺を恐れない態度。
気にいったな。

おまえに免じて・・・髪と服を正すことにしよう。
おい、真菜!おまえも・・・あれ?」


竹井遼の妹の真菜は咲の隣に立って、服装をなおしていた。


「私は会長様のご命令なら何でも聞くと誓いますわ。
違反箇所をおっしゃってください。すぐになおしますから。」


竹井兄妹は職員室へ連れていかれてから、再び先生たちからきびしい指導を受けるしかなかった。