女が好きそうなおしゃれな洋食レストランで、気になる子を夕飯に誘ったはいいものの。


さあ今から注文しようという時。

何気なく見た財布には、千円しか入っていないという痛恨のミス。


もちろん家に帰れば現金もカードもあるけれど、どうやってこの場を乗りきるか。


明らかに千円で足りる雰囲気ではない。


仕方なくサイレントモードにしていた携帯を取り出した。



「マネージャーからだ」



歌番組で共演した時に知り合った新人アイドル、まりえ。


高い声とえくぼが可愛いと評判で、ファンからはマリマリと呼ばれている。


俺より三つ年下で19才のまりえにそう告げてから電話に出る。



「いえ、外で食事中です。
はい、そうですか......。
わかりました、すぐに行きます」



かかってきてもいない電話を耳に当てて、一人芝居を打った後に申し訳なさそうにまりえの顔を見て。



「悪いけど......、急に仕事が入ったからでよう」