グチャグチャになってしまった頭の中で必死に考えていると、希龍くんは振り向いて優しく笑った。


「…バイバイ、美波」


あたしの目を見て
あたしに笑いかけて
あたしの名前を呼んで

彼は別れの挨拶をして出ていった。


"美波"

何度も何度も頭の中で繰り返される希龍くんの声。あたしの名前を呼ぶ、優しい声。


ほんとに、最後の別れみたいに。


―バタン…


去っていった。

唯一ここに残ったのは、あたしの大好きな彼の甘い香りだけ。


「何で…」

最後にあんなに優しく笑ったの?

どうせなら、もう二度と考えたくないと思えるほどに突き放してほしかった。

冷たい目を向けたまま、冷たい希龍くんのまま、記憶を終わらせたかった。