「少しでも離れようとすると、そう言うんだ。」

何度も、何度も。


「…神岡、由佳と一緒にいるようになって一度も本気で笑ってない。」

最後に見た作り笑いを思い出す。

最後に聞いた優しい声を思い出す。


「由佳もとっくに気づいてる。」

どうにかして引き留めたくて、彼を縛り付ける言葉を呪文のように呟いて。


「…俺一度だけ由佳の病室で川原の話をしたんだ。神岡もいた。」

「え?」

「由佳に好きな人いないの、って聞かれて、中学のとき好きだったのこと人がまだ好きなんだって言ったら…」

だから、あの子あたしの名前を…


「由佳には中学のときから川原のこと話してたから、"川原美波って子?"って言ったんだ、由佳が。」