涼は寝そべっている長椅子の空いている所に座ろうかと思ったが、それは使用人がやるべきことではない。
そのままで空を見上げた。
まだ星は見えない。
聞こえてくるピアノ曲に併せて、灰色の雲が流れているのが見えるだけ。
バッハのパルティータ。
綺樹は寝る前に必ず一人でぼんやりする時間がある。
この所、必ずかかっているのに、曲名を聞いた。
右手と左手が違うメロディーなのに、合わさるとそれは一つの曲になる。
何と言ったっけ。
そうだ対位法だ。
数学みたいだと思ったのだ。
「高い所では風が強いんだな」
「うん」
同じように見上げている綺樹の顔を見下ろす。
淡い瞳が空の色で濃く見える。
「スペイン人らしくないよな」
「は?」
「おまえ。
イメージするスペイン人より色素が薄い」
「なんだか失礼な感じがするのは気のせいか?」
「ああ、気のせいだ」
綺樹は表情を緩めた。

