「フェリックス?」
涼は予想していた名前に目を閉じる。
「ああ、これから式だから一言連絡をと思って」
何かフェリックスが言ったらしい。
綺樹がひそやかに笑い声をたてた。
その艶やかさに涼は胸をかきむしられた。
「ええ?
ああ。
そうだな」
綺樹が長い息を吐き出して、身じろぎした。
「フェリックス。
色々と、ありがとう」
静かな声だった。
涼はその横顔を見つめる。
綺樹はフェリックスの返答に口元で微笑すると、二三言しゃべって電話を切った。
立ち上がると携帯をドレッサーに置いた。
ドレスは幅広のリボンでぎゅっとしまったウエストから、緩やかなカーブで
裾が広がっていた。
ミカドシルク、オーガンジー、シフォン、レース。
それぞれの布地が幾重も花びらのように重なっている。
ベール越しのうなじから肩の線を眺める
柔らかな曲線で、昔のちょっと尖がった印象が無かった。
どう綺樹の中で整理がついたのかはわからない。
でもこれからは自分との結婚式なのだ。
涼は開いているドアをノックした。

